数学的帰納法 -正しく使えばものすごく便利
この6文字自体見たくない人もいるかと思うが,とにかく読んでいってほしい。
数学的帰納法というのは,次のようなものである。
nを自然数とする。命題 P(n) が,
① n=1 のとき成り立つ。
② n=k のとき成り立つと仮定すれば,n=k+1 のとき成り立つ。
①②が真であると証明できれば,P(n) はすべての自然数について成り立つ。
どうも堅っ苦しい。つまりは,ある問題を証明するために,
① 1を代入して正しいことを導く。
② kを代入した結果から,k+1を代入したとき正しいことを導く。
例えば,k=1 のとき正しいから,k=2 のとき正しい。
k=2 のとき正しいから,k=3 のとき正しい...と考える。
①②から正しい。
と考える方法である。
実践は大事だ。とにかくやってみよう。
n を 1 以上の整数とする。次の等式 P(n) を数学的帰納法により証明せよ。
P(n) : 2+4+6+ … +2n = n(n+1)
[解]① n=1 のとき
(左辺)=2 (右辺)=1×2=2
よって 成り立つ。
② n=k のとき,P(n) が成り立つと仮定すると
P(k) : 2+4+6+ … +2k = k(k+1)
n=k+1 のとき,上のP(k)を用いて変形すると
P(k+1) : 2+4+6+ … +2k+2(k+1) = k(k+1)+2(k+1)
=(k+1)(k+2)
=(k+1){(k+1)+1}
よって 成り立つ。
①②より 題意は示された。
この証明法の弱点として,n のとりうる値の最小単位がないと使えないというものがある。
例えば,自然数は 1, 2, 3, … と増えるから,最小単位は 1 である。
整数でも同様に考えられる。
しかし,実数には最小単位がない。1 の次の数を 2 というわけにはいかないからだ。
最小単位がないと,k+1 のように,次の数について考えられないから,
証明が破綻する。
もう一つの弱点として,n に最小値か最大値がないと使えないというものがある。
自然数の最小値は 1 である(大学以上では 0 を最小とすることもある)。
だが,整数には最小値も最大値も存在しない。正にも負にも無限に広がっている。
最小値も最大値も存在しないと,証明の起点が存在しないことになるから,
やはり破綻する。
数学的帰納法に関して,次のようなジョークがある。
命題:すべての人はハゲである。
[解]n を 0 以上の整数とし,P(n) を次のように定める。
P(n) : 髪の毛が n 本の人はハゲである。
① n=0 のとき 髪の毛が 0 本の人はハゲであるから 成り立つ。
② n=k のとき P(n) が成り立つと仮定する。
n=k+1 のとき,ハゲの人に髪の毛が 1 本くらい増えても変わらないから 成り立つ。
①②より n がどんな値でもP(n) は成り立つから 題意は示された。
わけがわからない。
うまくごまかされていないだろうか?
変な結果になったのは,何をもってハゲとするかの,明確な定義が決まっていないからである。
定義がしっかりしていなければ,数学的には認められない。
今回紹介したことを意識して,次の問題を解いてみよう。
次の命題 P の真偽を,数学的帰納法によって調べよ。
P : n を 1 以上の整数とする。1+2+3+ … +n と n² は等しい。
〈答えは下へ。〉
[解]① n=1 のとき (左辺) = 1,(右辺) = 1² = 1
よって 成り立つ。
② n=k のとき,命題 P が成り立つと仮定すると
1+2+3+ … +k = k² …A
n=k+1 のとき,Aを用いて変形すると
1+2+3+ … +k+(k+1) = k²+(k+1)
(右辺) ≠ (k+1)² であるから 成り立たない。
①②より 命題 P は偽である。
どうだっただろうか。